審査委員長講評

令和4年度・第10回麻生区観光写真コンクール

審査委員長講評

 受賞の皆様、おめでとうございます。審査委員長を務めました和光大学教員だった小関でございます。

 このコンクールは、2009年度に第1回が開催され、その後隔年になったこともあって、今年度10回目となります。
 10年前第4回に「子ども部門」が新たに設けられました。今回からは「和光大学賞」という賞も設けられ、さらに「第10回記念賞」と「区制施行40周年記念賞」も加えられました。かつてつだったのが、3つ増えました。喜ばしいことですが、その分、私の「講評」が若干長くなります皆様にとって喜ばしいやら悲しいやら、と。
 審査は私を含む10人の審査員によって、2月中旬に3時間を越えて行われました。

 まず最初にお伝えしておきたいのは、力作が多く、審査員は評価に大変苦心をしたということです。これは掛け値無しです。
 さて、吉例に即し、入賞作品を見て参りたいと思います。

 まず『子どもの部』の入賞作を見たいと思います。
 入賞作5作品は全て、小学生の作品です。

 TOOOYAくんの「生きている」
 宮崎颯万くんの「黒川の自然」
 鈴木楚來さんの「鏡の世界」
は一般の部に出てもイイ線を行く作品だと思います。いずれも構図感覚が素晴らしいですね。

生きている
黒川の自然
鏡の世界

   そして、佳作の「青空と共に輝くひまわり」のココアさん、「かわいい真っ赤な実の家族」の橋本暖乃香さん
ふたりとも身近な植物にカメラを向けて、楽しく写真を撮っている気持ちが伝わって来る作品に仕上げてくれました。

青空と共に輝くひまわり
かわいい真っ赤な実の家族

 5人とも、これからも気がついた身の回りの事物や景色を撮り続けてください。名所旧跡とはひと味違った、光景や事物を見つけ出して、麻生区の新しい魅力を発信して、一般の部の大人の参加者をおびやかしてください。

さて、「一般の部」に移ります。

おじぞうさまぼくのおはなし聞いて

 まず、最優秀賞「おじぞうさまぼくのおはなし聞いて」の菅原陽子さんの作品です。
 麻生区片平の名刹・修廣寺さんお地蔵様を配した写真です。修廣寺位牌堂の前にいらっしゃる優しいお顔のお地蔵様のバック桜と青空を配して、素晴らしく「暖か〜い」写真に仕上がっていると思います。
 右上から左下にかけての対角線構図の基本のようなカメラポジションをおとりになっています。
 じっくりとポジションを探し、ちょうどいいお天気で、お地蔵さまのお顔にいい光が当たっている、光の加減の良い時間にシャッターを切れた、地の利の勝利と申し上げたら失礼にあたるでしょうか。

蔵コスモス

 次に「和光大学賞」のKENT.Tさんの「蔵コスモス」です。撮影対象はYさんのお宅の蔵とコスモスです。手前のコスモスの可憐なピンクと、存在感を示す背後の白い蔵がとてもいいバランスで押さえられています。
 この日は「岡上ヌーボーの解禁日」だったと思います。その特別な日を、ワインに集まる人に焦点を当てるのでなく、華やかさをさりげなく切り取っていらっしゃと思います。
 こちらは個人のお宅ですので、特別な日以外は立ち入らないことをお願いしておきます。

白い稲妻
白い稲妻

 麻生文化協会会長賞はSMNさんの「白い稲妻」になりました。
 ご覧のとおりの雪景色。あたかも水墨画のようと言いたくなります。ちょっと山間という感じの散歩道で、かつては田んぼだったところに歩道が敷かれている、それだけの場所ですが、雪が降って、歩道のS字型が際立った瞬間をお撮りになりました。普段はちょっとモダンな感じの散歩道も「光」〜雪に塗れた〜の散らばり方次第で「観光地」になります。

 ここで少し、個別の作品についての講評から離れます。
 「観光」というと、何か特別な場所に、特別な経験をするために、あえて言えば「わざわざ」出かけるように思いがちですが、私はそうとは限らないと思っています。
 以前申し上げたことですが、「観光」の本来の語義は「国の文物や礼制を観察する」という意味でした。「他国の制度や文物を視察する」から転じて、現在のような遊覧の意味になりました。
 しかしこうした通例の「観光」の語への理解に対して、武蔵野美術大学で長く教鞭をとっておられた民俗学者の宮本常一さんは、

人をあそばせるための観光施設も必要であろうがそれにもまして重要なのは、より多くの人々が事務や利害をこえて知りあう機会をもつ・・・そのために観光ということばの内容と意味がかわってくるように望んでやまない」

おっしゃっています。
 歴史のある建物やお祭りにも目を向けつつ、小さなものの発する「光」にも同じくらいにしっかりと目を向ける。
 日常の様々な場面視野の端っこあたりでささやかに自己主張しているものたちへも目を向け、そこから利害を超えて知り合う機会を手に入れていく、ということでしょう。
 その知り合う相手は人間だけとは限らないと思います
 身近なモノや空間、そして光景も少し角度を変えて見るなら、新鮮な「光」を送ってきてくれています。そのようなものとして「観光」を考えて行けたらと思います。

 講評に戻ります。

禅寺丸柿もぎ
禅寺丸柿もぎ

  柿生禅寺丸保存会会長賞はやまざるさんの「禅寺丸柿もぎ」
 子供がバッパサミで慎重に柿をもぎ取ろうとしている情景です。「かきまるくんの左にいる子どもさんの手に葉っぱの付いた禅寺丸柿が見えています。
 写っている人の視線の大半は柿の木に向かっていて、それと逆行する「かきくんの視線が写真の中のアクセントになっています。
 バッパサミの先にも柿の実が見えていたらもっと良かったでしょう

サンタさんへの願い

 今年に限って「麻生区制40周年記念賞」は野球ママさんの「サンタさんへの願い」に贈られます。
 新百合ケ駅前イルミネーションタワーの写真です。同じ対象を写した応募作品は複数ありましたが、てっぺんオブジェの向きも含めていいアングルを見つけて撮っておられます。右上に三日月も良い位置に入っています。後景の処理も良かったと思います。

氏神様へ初詣

 次に、写真コンクールが10回目を迎えての「第10回記念賞」は、麻生美花さんの「氏神様へ初詣」です。
 新春の白山神社の二の鳥居へ向けて、祭礼提灯が下がり、拝殿へ向かう階段への遠近感を強調しています。
 見慣れた景色も特別な時期に見ると異なって見えるという云う好例す。

名残りのもみじ
名残りのもみじ

 さて、次に「川崎市観光協会会長賞」のイヴねこさん、紅葉が終わりに近づいた王禅寺の観音堂を撮った「名残りのもみじ」です。
 日陰でまだ散らず最後の朱色を誇るモミジを捉えました。そこが魅力です。
 地面モミジと屋根に落ちたモミジとが少し悲しげですが、わずかに射す日差し隠し味のように聞いています。

様々な羅漢像

 次に「麻生区商店街連合会会長賞」を受賞される東川まさ男さんの「様々な羅漢像」です。人気のスポット浄慶寺す。
 羅漢さんを撮る方の9割が、それぞれの羅漢さんの持ち物や表情の面白さに惹かれて、単体ないしは2、3人くらいの羅漢さんに近づいて撮っていらっしゃいますが、そうしたアングルを相対化するように、「行列のような」羅漢様のお姿を捉えました
 しかも、画面左隅に「十三重石塔そのにケヤキの木を配する構図は、並ぶ羅漢様だけでは単調にな構図を救っています。光の向きもいい時間帯をお選びになっています。

40周年かきまるくん頑張る

 優秀賞の最後の「麻生区町会連合会会長賞」は、安藤さんの「40周年かきまるくん頑張る」です。
 去年の10月に、区制40周年記念事業として開かれた「あさお区民まつり」でのワンショット。
 川崎市消防局の「レッド・ウィングス」と音楽隊のパレードです。
 位置どりお手本のような作品す。ご承知の通り、この道は直線道路ですが、区役所前の、緩やかな坂を登ってきて、道が平らになったあたりの低い位置にカメラを陣取った点が素晴らしかったと思います。きっと早い時間に足を運んで、カメラ・ポジションを確保なさったのだろうと推察いたします。

 さて、優秀賞以外の、入賞の皆さんの作品についても一つ一つ触れたいところですが、時間の制約もありますので、ごく簡単に。
 優秀賞の作品と紙一重、いや数ミクロンの差しかないような興味深い作品ばかりでした。それはに漏れた作品も同じです。
 「黒川の一輪草」は見ていて見飽きない素敵な作品ですし、魚眼レンズを使った「新百合の眼」はバスターミナルがこんな風にも見えるのかと驚かされます。
 他の入賞作も風景や事物への斬新な切り口を見せてくださったことを強調しておきたいと思います。

黒川の一輪草
新百合の眼
初めての稲刈り
五重塔と百日紅
樹齢800年のオーラを放射
水面に映る秋

 そろそろ講評を閉めたいと思いますが、そこで「一般の部」、「子どもの部」のどちらの部門にも、そして入賞作品にも見られたある種の傾向に触れて、今後のご参考にして頂きたいと思います。
 それは題名、タイトルについてです。タイトルも大切な作品の一部です。
 見る人の視線をタイトルで誘導や支配をし過ぎないように、配慮ていただくことは大切です。
 「写真は引き算」というのは画像だけの問題ではありません。タイトルにもこの「引き算」という言葉を思い出して頂くとよろしいかも知れません

 さて、最後の最後に、皆様に簡単なクイズをお出しします。
 一般の部、子どもの部、その優秀賞、入賞作品を通じて、四季のうちで一番少なかった季節はいつでしょう?
 そう、夏です。夏の光もコンクールにお寄せいただくと良いのではないか、と思っております。
 こんなことを考えると、あらためて「写真は光の芸術」ということを思わされます。季節ごとに光の様子は大きくなります。そして、画面の切り取り方次第で、光の見え方が変わってきます。
 夏の光も魅力的です。
 写真の原語は、「PHOTOGRAPH」です。「写真」と訳されたために、真実を写すと言われがちですけれど、そのまま訳せば「光画」、「光の絵」す。
 同じ時間、同じ場所、同じアングルで、同じ機材を使って撮影しても、光の具合次第で同じ写真にはなりません。そのような一期一会の瞬間を捉える、これも「光を観る」という意味で「観光写真」のキモと言えるかも知れません。

 みなさま、今後も麻生区の魅力を発信する写真を撮って、この「観光写真コンクール」にご応募くださり、「コンクール」を永く、お心に留めて撮り続けて下さることをお願いして、「講評」を終わらせていただきます。

(3月5日に麻生区役所で催された表彰式での講評に加筆修正をしました)



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